Benesse お茶の水ゼミナール
化学
新テストの試行か?グラフの読み取りなど、少しひねった形の出題。

新課程となって5年目。2年目に問題構成の変化が起こってから,大問数,問題の構成は大きく変わっていない。昨年はそれまで出題に工夫がなされていた有機分野の易化が見られたが,今年は全体的に少しひねった形で出題されている問題が見られ,昨年より少々難化といったところだろう。化学,化学基礎分野から幅広く出題されてはいるが,化学基礎分野のみを扱う問題は出題が少なく,全体的に化学分野に偏った出題となっている。

新課程となって,センター試験の化学は概ね,文系→化学基礎,理系→化学(4単位),を受験するようになった。これに伴い化学(4単位)の問題は旧課程の問題より大分難易度が上がっている。昨年は,一昨年と比べて易化したが,今年のセンター試験では,新テストの試行のためか,普段ならば直接問題文に与えられている平衡定数(溶解度積)を,速度定数やグラフで与えたり,元素分析に関する問題をグラフで出題したりなど,これまでより少しひねった形で出題されている問題が目立った。全体としてみても,昨年は鳴りを潜めた上位者がケアレスミスを犯しやすいような問題も復活しており,難易度としては2017年度と同じ程度と思われる。細かく見ていこう。

第1問
問1は化学基礎の分野からの出題。硝酸カリウムはイオン結晶だが,硝酸イオン自体が共有結合を含んでいることに気づけたかどうか。問の結晶は5年連続の出題だ!来年も出題されるとみて間違いなさそうである。題材は昨年が六方最密構造であるのに対し,今年はダイヤモンド格子で,面心立方格子や体心立方格子といった基本的なもののみが出題されているわけではない。問3は分子間力に関する正誤問題で,特に難しくはない。問4は蒸気密度法に関する問題。昨年までは連続で蒸気圧に関する設問があったが,今年はなくなり,第1問全体としては解きやすくなったのではないか。問5は溶解に関する正誤。問6はヘンリーの法則に関する基本問題である。

第2問
新課程になってから5年間で4年,“溶液全量が変化しているためモル濃度が変わる”点に注意しなければ間違える様な設問がある。新課程初年度は,2液混合の溶解度積の問題,2年目は酢酸と塩酸の混合液のpH,そして昨年は,問3のbで過酸化水素の平均分解速度に関する問題が出題された。昨年はその様な設問はなく,今年は新課程初年度と同じ形で再び復活した。問3の溶解度積の問題がそれにあたる。しかもこの問題では,溶解度積をグラフから読み取るようになっており,難易度は高かっただろう。また,問1では,センター試験にしては珍しく,エネルギー図における物質のエネルギーの大小を問う問題,問2では,平衡定数を与えず,正反応と逆反応の速度定数を与える形で出題されている。いずれの出題も典型的とは言えず,思考力というにはいささか言いすぎな感もあるが,いずれにせよ各分野のしっかりとした理解が求められる。問5では,塩化アンモニウムの溶解反応による温度変化を文字式で計算させる形式で,聞いている内容は基本的ではあるが,溶液の質量,熱の単位,反応熱の正負など気を付けなければならない部分は多く,決して簡単ではない。今年の第2問で落ち着ける問題は問4だけである。

第3問
陽イオンの系統分離の問題が3年連続で出題されなかった。全体としては落ち着いた出題で,非常に解答しやすいが,問5のみ少々思考力を要する形の設問となっている。問5の主題は過不足のある反応であるが,通常は混合する物質の一方の量を固定したケースが出題されるのに対し,今年は2つの溶液の体積の和が一定となるように混合するパターンの問題が出題された。しかも,表から前記の条件を読み取り,把握し,正しいグラフを選ぶ形式で出題されており,過不足のある反応に対する本質的理解とともに,読解力も試されている。なお,昨年も無機化学で,典型問題ではない質量分析の問題が出題されており,注意が必要である。その他の問1から問4は典型問題なので,確実に得点したい。問4のaで久しぶりに正文選択が出題された(これまでは基本的に誤文選択)ことは,念のため指摘しておこう。

第4問
有機化学の基礎的な内容を問う出題がメイン。昨年は素直な形で出題されたが,今年度は少しひねった形式で出題されている。問2は,アルコールと金属ナトリウムの反応の量的関係が主題だが,混合物中のアルコール含有率(質量パーセント)を問う形,問4は構造異性体を問う問題だが,分子式ではなく官能基の異なる異性体の構造を与えた形で出題されている。しかしながら,いずれも微々たる差なので軽く乗り越えてほしいところ。問3の設問は,聞いている内容自体は非常に基本的な内容だが,題意が多少把握しづらい。問5のような実験問題は例年出題されているので,実験装置,手法はきちんと確認しておきたい。

第5問~第7問
高分子の問題は新課程となってから易化してきたが,今年は計算問題に当たるものに多少癖があった。第6問の問2では,カルボキシ基の数を2で割ると,高分子の分子数が求まることに気づけたかどうか。第7問の問2は元素分析の結果をグラフから読み取り,ジペプチドの構成アミノ酸を決める問題であった。出題のされ方としては目新しいので,面食らった学生も少なくなかったのではないかと思う。ただ,落ち着いて着眼点を見つけていけば,Sの質量パーセントと選択肢のアミノ酸の分子量に注目するだけで簡単に解ける。

今年は新テストの試行か,多少ひねった出題が見られ,比較的簡単だった昨年度と比べると,やや難化。昨年は出題されなかったケアレスミスを誘うような問題がいくつか出題されており気を抜けない。演習不足となると,浪人生との得点差が開いてしまうので,9月くらいまでには一通りの学習を終え演習に入れるよう,気を抜かずに頑張ってほしい。


第1問物質の状態化学基礎分野からの出題は2問のみで化学分野を中心とした出題。蒸気圧に関する問題が出題されなかった。
第2問物質の変化と平衡化学分野を中心とした出題。ややひねった出題が目立った。
第3問無機化学恒例の金属イオンの系統分離の問題が3年連続で出題されなかった。
第4問有機化学基本的な出題が多い。確実に得点したい。実験問題には注意が必要。
第5問有機高分子次の第6,7問とあわせて,大問1題分より少し少ないくらい。高分子全般に関する出題。
第6問合成高分子(選択)合成高分子からの出題。計算問題の難易度は年々簡単になってきている。
第7問天然高分子(選択)アミノ酸は5年連続,糖が3年連続で出題された。


平均点変移
20182017201620152014
60.5751.9454.4862.5069.42