昨年と同様に,基本を重視した出題となっています。計算を要する問題は昨年より1題減少して4題となり,文字式によるものは出題されませんでした。総じて,計算問題は取り組みやすくなったと思います。また,正誤問題はすべて4択になり(昨年は5択を含む),若干易化したといえます。一方で,身のまわりの物質に関する知識や,実験装置や実験の安全に関する問題が扱われ,ここで差がついたと考えられます。教科書を普段からどれだけ読み込んでいるかが問われたといえるでしょう。
基本的な問題が中心なので,高校1・2年生であっても,無理なく取り組めたのではないかと思います。ただ,教科書に載っている内容がきちんと定着していたでしょうか?化学で用いられる用語について,その定義や内容をしっかりと他人に説明できるくらいに習熟しておくことが大切です。
第1問は物質の構成に関する問題で,問1・2・5・6は典型的な問題といえます。問2の物質の分離に関する用語は教科書にまとまっているので,今回出題されなかったクロマトグラフィーなども含めて復習しておいて下さい。今後,共通テストにおいては実験に関する問題が増加すると予想されるので,その基本となる実験操作に関する知識は必須です。昨年は第1問に計算問題が1題出題されていましたが,今年も問3にありました。化合物や混合物中の成分の量または比に関する問題が多いです。問4は塩素の生成に関する問題で,4単位の『化学』を学習している人はすぐ答えられたかと思いますが,2単位の『化学基礎』のみ学習している人にとっては,やや難しかったと考えられます。ただし,「順次この気体を通じることで不純物を取り除き」や「濃硫酸は気体から水蒸気を除くために用いた」というヒントが問題文に書かれているので,このような細かいところを読み飛ばさずに解答することが大切であると分かると思います。問7は身のまわりの物質の性質と用途に関する設問で教科書に記載はありますが,『化学基礎』では知識中心の出題となるため,定着度が課題となるでしょう。『化学』も履修する人は,ぜひ関連する部分(加水分解や無機化学の各論など)を見ておきましょう。
第2問は物質の変化に関する問題で,化学量と化学反応における量的について,確かな理解が望まれます。問1は選択肢①において気体の分子量または平均分子量の大小に着目できたかがポイントとなっています。『化学基礎』では分子量(平均分子量)については標準状態の場合について扱うのが一般的なため,「同じ体積・圧力・温度」という記述からアボガドロの法則を想起して判断できたかが問われています。問2はよく見かけるグラフだと思いますが,グラフが折れ曲がったところが当量点ということを理解している必要があります。問3はリン酸になじみがない人もいるかもしれませんが,強酸でないことが分かっていれば解決する問題です。問4は正誤問題の形式ですが,実質的には濃度や中和滴定の計算を含んでいます。問5は注意すべき問題で,現課程『化学基礎』になってからは初めて出題された内容(実験の安全)です。それより前の過程のセンター試験においては出題されていた内容ですので,特に『化学基礎』・『化学』を履修する人は課程の違いに関係なく過去問演習をしておくことが有効なよい例といえるでしょう。問6は電気化学の内容ですが,『化学』のように反応の詳細に踏み込む必要はなく,酸化数の変化が分かっていれば問題はありません。
以上の通り,今年も昨年同様の形式・分量・難易度といえますが,今後実施される共通テストを意識したと考えられる設問が見られました。これはどの教科にも共通していえると考えられますが,文章の読解力,そして確かな基礎学力に基づいてそれを理解し,思考する能力が大事になります。今回の試験では第1問の問4が該当します。グラフの読み取りを中心とした応用問題が考えられるため,よく練習しておくとよいでしょう。
第1問 | 物質の構成 | 電子配置,分離操作,化学量,気体の精製,元素の性質,化学結合,身のまわりの物質 |
第2問 | 物質の変化 | 物質量,化学反応の量的関係,正塩の液性,酸塩基反応,実験の安全,酸化還元反応 |