過去のセンター試験の出題だけでなく、2020年度から導入される予定の共通テストのプレテストの出題をみても教科書の全範囲から偏りなく出題するという方針には変わりがない。よって、受験生が最初に気を配るべきは「不得意分野を作らない」ことだ。もう一つ大事な点は、暗記すればよいという学習方針は捨てることである。知識問題でも知識とその内容理解を前提として文章の正誤を判定したり、知識をもとにデータ読解を行う必要がある問題や目的に対して必要な実験を設計させる問題など、用語や名称を覚えているだけでは対処できない体系的な知識と理解を要求する問題が出題され、そういった問題でこそ点数差が生まれているからである。
知識問題が多い傾向には変わりはないが、知識をもとに考察する問題が増えたため、実験やデータからの考察を含めた考察系問題の割合が増え、難易度的には昨年度よりもやや難化している。
また、「知識をどう使うか」を重視した共通テストへの移行を見据えて、実験考察問題や必要とされる実験を考えさせる問題、計算問題も出題されており、今後はこれまで以上に思考力が要求される問題が増えてゆくはずである。しかし、考察や計算の出題が増えたといっても、教科書レベルの知識をもとに文章の正誤を判定する問題や、知識をもとにデータを読み解く問題、他の大学の入試では頻出の形式の計算問題などであるため、総合的な難易度は決して高くはないのでそこまで心配する必要はない。ただ、これまで以上に内容の理解に重点をおくこと、考察系問題や計算問題の演習を十分に行うことが高得点を狙ううえで重要になってくるだけである。
第1問
Aは真核単細胞生物、代謝と酵素を扱った問題で、問1~2は教科書レベルの知識問題である。問3では目的に対して必要な実験を考えさせる問題であるが、共通テストのプレテストでも同テーマの出題がなされている。これも2020年教育改革のテーマの一つである「学びの主体性」を意識した出題だと言える。
Bは遺伝子と遺伝情報の発現を扱った問題だが、細胞の分化と遺伝子発現をテーマとした問5の正誤判定問題や問6の計算もテキストや問題集でもよく見かける出題形式である。問題演習を十分にこなしている受験生であれば、類似問題を思い出し、確実に得点につなげることができたであろう。
第2問
Aは血液を扱った問題であるが、問2の正誤判定問題は血液循環の知識をもとに考察を進める必要がある「知識をどう使うか」が問われる問題である。また、問3も知識ベースの考察問題であるが、問題文中の二酸化炭素濃度の条件をきちんと読み取る必要がある。
Bは獲得免疫を扱った問題で、教科書レベルの知識問題であるので確実に得点につなげたい問題である。
第3問
Aは生態系内の物質循環とエネルギーの流れを扱った問題であるが、知識問題としては平易なものであるため、確実に得点しておきたい問題であった。
Bはバイオームや光-光合成曲線、遷移という複数のテーマを関連付けた総合問題である。問3はバイオームの知識とグラフの読解を組み合わせる必要があり、やや手間のかかる問題である。問4は文章の正誤判定問題であるが、光合成速度と呼吸速度の関係がきちんと理解できていないと、文章とグラフの突き合わせができない。問5は遷移に関する実験考察問題であり、ギャップ更新や二次遷移の知識をもとに「陽樹の埋土種子からの発芽」に至るのが最短ルートであろうが、実は問題文中にあるヒントが読み取れていれば正解に辿り着くことができる読解力が試される問題でもあった。
問題構成としては知識または知識を元に考えさせる問題が多くを占めるので、まずは基本の知識と理解の欠落を無くしてゆくことが第一歩となる。更に知識問題でも、他の章の内容との関連を問う形式のものなども過去に出題されているので、単純に用語や名称を覚えてよしとするのではなく、授業でも相互の関連などの解説に注意を向けるようにしたい。また、文章の正誤判定問題が多いこと、問題文中の条件やヒントをもとに考えさせる問題も今後増えて行くと予想されることもあり、「文章を正確に読み解く力」を養うことも大事である。しかしながら、そのどれもが短期間に即成できるスキルではないため、可能な限り早い段階から対策を始めるようにしたい。
また、得点差が生まれやすい問題が実験・観察データからの考察問題や計算問題である。考察問題では問題文やデータの読解が必須となり、ここを苦手とする受験生も多いが、弱点の本質が問題内の条件やヒントの読み解き部分であるケースが意外に多く、独学ではなかなか気づかないままとなっていることも多い。計算問題については比較的定型の形式の問題であることが多いため、十分な演習量がこなせていれば問題はない。
以上のことをふまえ、授業や講習では相互の関連を含めた体系的な解説、文章やデータの読解手順と考察の進め方、定型問題の解法と手順などを紹介してゆく。予備校ならではのノウハウと効率化のテクニックを活用して要領よく得点力を上げていこう。
最後に注目すべき問題として、第3問 問5を取り上げる。二次遷移の進行が速い理由として、すでに土壌が存在すること、残された埋土種子や根などからの植生回復があること、周囲からの種子供給(多くが先駆種)があることがあり、問題の題材としてもポピュラーなものである。その知識をもとに埋土種子からの発芽あること、十分な日照が得られる伐採跡地では陽生植物である陽樹が中心になるであろうという類推から③を選択するのが最短の攻略ルートであろうが、問題文中に用意されている 実験1では「茎や根は除去している」→①は×、「芽生えは極相種(陰樹)のものではない」と「二次遷移の初期に見られる芽生えは実験1と同じで極相種ではない」→②と④も× などのヒントが読み取れていれば正解に辿り着くことができる。
第1問 | 生物と遺伝子 | 真核単細胞生物、代謝と酵素、遺伝子と遺伝情報の発現を扱った知識と考察、計算問題 |
第2問 | 生物の体内環境の維持 | 血液とその循環、酸素解離曲線、免疫を扱った知識と考察問題 |
第3問 | 生物の多様性と生態系 | 物質循環とエネルギーの流れ、バイオーム、光-光合成曲線、遷移を扱った知識とデータ読解、実験考察問題 |