毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。≪考えるチカラ≫を身に付ける方法を伝える「テストの花道」や小1プロブレムに対応する「できた できた できた」などの番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。
今回紹介するのは、「自ら学ぶ姿勢が自然と培われる」授業です。
埼玉県の中学校で理科を教えるr先生が目指す授業……。
「人のやったことを暗記するのではなく、解決できないことに直面した時、自分で追求し、目の前で起こったことを大切に考え、判断する力を身に付けてほしい。そのために、考える手順を教える。そして、どこで間違ったかがわかる力を身に付けてもらいたい」
では、どんな授業をするのでしょうか?
授業を受けるのは、1年生です。「気体Xの正体を探し出す」いう内容です。
注目すべきなのは、しっかりとした準備段階があることです。つまり、考えるために必要な基礎知識を生徒に定着させる授業がきっちりと行われています。そのために、五感をフル活動させる授業が行われます。
授業は、シャボン玉を作りだして、火をつけ、大きなバンッ! という破裂音を響かせる実験から始まりました。
生徒たちの注目が集まると、すかさず「ゴーグルをかけて、集まれ!」という指示が出ます。このゴ!)グルは、先生が危険防止のために、生徒用に揃えたモノです。
「驚き」と「ゴーグル装着」で、生徒たちの集中力は一気に高まります。そして、「シャボン玉の中に入っている気体は、すでに習ったモノだけど……」と伝えると、生徒たちは、今までに習ったさまざまな気体の性質の記憶を検索し始めたようでした。
先生は、答えは言いません。その代わりに、手作りの水素発生装置を取り出します。水素だけが入った試験管を作りだし、みんなに質問します。「火をつけたロウソクを入れたらどうなるか?」。
答えの選択肢は、
ア)爆発する
イ)激しく燃える
ウ)普通に燃える
エ)燃えないで消える
生徒たちの予想は……
ア)14人
イ)11人
ウ)1人
エ)4人
それぞれ理由を話した後、正しい答えを実験で確かめます。水素の中に、火を入れると……消えました。つまり、選んだ人が少なかった(エ)が正解でした。80%以上の生徒が予想を外しました。
このようにr先生は、予想を立てた大部分が外れる課題を用意します。少数の意見が逆転して、正しくなる。つまり、多数決がすべて正解ではないという意識を残すのです。そして、これを続けていくうちに、お互い意見を言い合い、少数でも堂々と意見を言えるようになるといいます。
さて、はじめの破裂したシャボン玉の中には、水素と酸素が入っていました。空気より軽く爆発する性質のある水素と、火を燃やす性質のある酸素。その特性を活かした実験です。このようにr先生は、生徒が学んできた知識をフル活動したくなるように、授業を組むのです。
いよいよ謎の気体Xの正体を探る授業です。気体の性質を学んできた生徒たちの総仕上げです。
気体Xは、生徒が作ります。塩化アンモニウム5グラムと亜硝酸ナトリウム7グラムの粉末に、水20立方cmを加え、それを熱湯で温めると、泡が発生します。その泡が気体Xです。
みんな調べ始めます。調べ方は、酸素・二酸化炭素・アンモニア・水素などこれまでに調べた知識を総動員することが求められます。
どんな仮説が立てられるか。それを証明するにはどんな実験をすればよいかを考えるのです。
火のついたロウソクを入れてみる。消えてしまいました。ここから、酸素ではないことがわかります。二酸化炭素ではと考え、石灰水を入れてみます。しかし、濁りません。二酸化炭素でもありません。水素では? と考えたグループは、シャボン玉を作りました。水素なら空気より軽いので、上に上がるはずです。でも、結果は残念。では、酸素か? それは、最初に火が消えたので、ありえません。
仮説は次々に外れていきます。「わからない」、でも「知りたい」という気持ちが高まります。みんな、もう一度、事実を書いてまとめ直し、見逃している実験はないか、次に何をすればよいのか?と考えはじめます。
この授業のなかで、気体Xを探し出すことはできませんでした。すると、放課後、生徒が自主的に理科室に集まってきました。どうしても調べたいというのです。
まさに、「自ら学ぶ姿勢が自然と培われた」瞬間です。
火を近付ける、シャボン玉にする、リトマス試験紙で試すなど、これまでに習った知識を使ってもう一度調べます。
この授業では、1人だけ、「もしかしたら……」と正解を推測した生徒が出ました。
ただ、確証を持って言える事実が見つかりませんでした。
でも、迷うことを楽しむ持久力をしっかりつけたと思います。
気体Xの正体は、窒素です。
確証を持ってそう言うためには、人の息と気体Xのシャボン玉の落ちるスピードが同じであることに注目し、以前に習った「息の多くは窒素である」ということに気付く必要があります。そう、この窒素は、派手な証拠がない気体なのです。
最後に印象に残ったr先生の言葉。
「今、みんなはショートカットの中で生きている。だからこそ、理科では、手順を覚えてもらいたい」。
ちょっと感動の授業でした。