「令和」と「日本の神話」の流れと裏話

はじめに

今回は、大学入試問題の背景として、元号の「令和」と歴史文化を考えてみます。

2013年の大学入試センター試験の国語・現代文で小林秀雄著「鍔(つば)」が出題されましたね。あれは難しすぎる。あんな問題は入試に不適切である・・・という意見がたくさん出されました。どんな内容でしょうか?

中学生にはチョット難しいですが、高校生のみなさんは「過去問」のひとつとして解いてみてください。チャンスがあったら、私の特別講座もいいですね。楽しいですよ。

背景を理解していれば、難しくないものが多い

小林秀雄さんの文章はストレートではないので読みにくいのは事実です。しかし、日本の代表的な評論家の文章です。お茶ゼミ√+のみなさんには、軽く読みこなして欲しいです。実際に、たくさんの先輩が、しっかり読んで、高得点を取っていましたからね。

一見、難しそうに見える文章は、武具の「鍔」と「応仁の乱」のふたつを知っていて、筋道を追って文章を丁寧に読んでいきさえすれば、楽しくて、内容が豊かなのです。

難しく思った人は、背景となる「知識と教養」が不足していたのでしょうね。

いまこそ「日本の伝統・文化の理解」が要求されている

グローバルな社会です。海外の人に「日本文化を語る機会」が増えますね。むかし、ブタペストに住んでいた実妹が「なぜ五月人形を飾るの?」と現地の人に聞かれて困ったことがありました。皆さんは「雛(ひな)祭り」・「日本の神話」のことなどを、海外の人に聞かれて、平易に説明できますか?伝統も習慣も宗教も異なる人へ「地域の伝統行事」・「祭」・「生活習慣」などを分かり易く解説できる見識が必要ですね。 さて「鍔」は剣道部で「竹刀」を持っている人は簡単にイメージできたはずです。 「鍔ぜりあい」・「鍔際」など、現在も使いますね。日本史の「応仁の乱」のことも学習していれば難しくないですね。

鍔

この機会に国際的な名画「羅生門」を観てください。原作は、芥川龍之介の「藪の中」です。読んだことがありますか。こうした基礎的な「知識・教養」が大切です。

羅生門
羅生門 【画像の引用元

なぜ、元号が「令和」になったのですか

あなたは、「平成」とか「令和」という「元号」がどんな意味を持っていると思っていますか?その歴史的背景を理解できますか?元号は「日本独自の文化だ」という人もいますね。秋には「大嘗祭(だいじょうさい)」が大々的に行われますね。

村祭りに、バナナやパイナップルをお供えしてはいけない意味がわかりますか?

新嘗祭(にいなめさい)など、大学入試の「隠れテーマ」になりますから、基本的なことは知っていたいです。

さて「令和」です。西暦730年・2月の梅の花が咲き匂う日。

九州・太宰府に赴任していた大伴旅人という高級官僚が、地域の著名人を集めて宴会を開催しました。ここに集まってきたのは32人。そこで、「一人一首ずつ和歌を詠う」ことになりました。「カラオケで一人一曲歌う」というイメージです。それを少し高級にした感じです。

そこで詠われた歌が、のちに編纂(へんさん)された「萬葉集」に収録され、その『序文』の中に「初春令月、気淑風和(しょしゅんのれいげつにして、きよくかぜやわらぎ)」があるというのです。「令」と「和」ですね。

どんな意味かといえば「初春のこの良い月に、気は良く風はやわらか」ということです。春の訪れを喜び、みんなが和やかに歌を詠んで楽しむ。採り出した漢字だけに着目すれば、「和しむべし」「みんなで仲良くしましょう」ということですね。

この時に漢文で書かれた序文の中から、今回の「令和」が採られたというのです。

復元した大宰府です。九州歴史資料館からの引用です。

復元した大宰府
復元した大宰府 【画像の引用元

では、平成という元号の背景はなんですか?

「平成」という元号は、司馬遷の『史記』と『書経』の中から採られたようですね。

史記の<内平天成>と書経の<地平天成>は「国の内外、天地とも平和が達成される」という意味で使われたのですね。

『史記』や『書経』については、別の機会に触れることにしますが、元号の「出典の根拠=典拠」があることは記憶しておきましょう。

日本独自の「万葉集が典拠だ」というので、騒いでいる人がいますが、平成までの元号の出典が、中国の古典「漢籍」であるのに対して、令和の出典が「日本の古典」であるということに焦点をあわせているからですね。

私は冷静さを欠いた騒ぎすぎだ、と思っていますが、みなさんは、どうですか?

真名文字と仮名文字

漢字のことを「真名(まな)」文字といいます。分かり易く言えば、「本当の文字」ということです。

それに対して、漢字の一部を取ったり、省略したりして「仮名文字」が生まれました。

「仮名」は素晴らしい日本人の発明です。つまり「真」と「仮」の違いです。

奈良時代以前の正式な文章は漢字で書かれました。これが漢文を学習する意義・根拠のひとつです。これは「漢文を習う人の入口」ですから、中学生はこのポイントを理解してください。

万葉集は、日本語を漢字で表記しています。つまり「当て字(万葉仮名)」ですから、急に「万葉集」に親しむといっても、多くの人は読めないでしょう。

当時の教養人・貴族は中国の『文選』を教科書にして勉強していましたから、日本人が詠んだ和歌の中に中国の影響がみられるのは「当然」です。排他的に言う人の方が狭量です。

『文選』は、古代中国の知識人が学習する基本的な書物です。日本にも早くから伝わり、教養人貴族・有識者の「教科書」の役割を果たしたものですから、日本の文学作品に大きな影響力を持ったのは自然なことです。

中国・後漢の文人である張衡(ちょうこう)という人の「帰田賦(きでんのふ)」という作品に、「序文」と同じような一節がみられます。いま、みなさんが英語やフランス語などに親しむことと同じです。

世界に誇る『源氏物語』は仮名文字で書かれています。女性は、漢字を使うことは「生意気なこと」といわれた時代の作品ですから、紫式部とか、清少納言という人は凄いですね。

日本で「元号」が使われたのはいつからですか?

日本で初めての元号は「大化」です。皆さんは「大化の改新」で勉強しましたね。

なぜ「大化」という元号が選ばれたのかはわかりません。

しかし、歴史を見ると「近代国家に切り替えよう」とした当時の政治家の「強い意志だ」と見て取ることができます。

当時の政治モデルは「唐」です。国際的な国家である唐は、第2代皇帝太宗(たいそう)の時代に「貞観の治(じょうがんのち)」と呼ばれる理想政治を実現していましたからね。長安を都とする官僚国家でした。

遣唐使や留学生として、レベルの高い唐の制度に触れてきた人々は、日本を、何とかして「近代国家」に変えようとしました。そこで中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)と中臣鎌足(なかとみのかまたり)が中心になってクーデターを起こすのですね。これが「大化の改新」(645年)です。

やがて、皇子が「天智天皇(てんちてんのう)」になり、仕掛け人の鎌足の一族が権力を握りました。後に「藤原氏」を名乗るのですね。いま伊藤・斎藤・近藤など「籐」という苗字を持っている人は、この藤原氏の流れだといっていますね。実際は知りませんけど(笑)

天智天皇の弟の「天武天皇(てんむてんのう)」(686年)が即位すると、一気に中央政権国家体制が整います。

この中で、『古事記』(712年)が編纂されます。日本語で表記できないから、漢字を当てました。素人にはとても読みにくいです。

続いて『日本書記』(720年)が編纂されますが、古事記とダブって記録されているのは、一層国家統一の目的をもって編纂されたからだと言われています。政治的な色彩が強いですね。

その後、約40年後、天皇から庶民に至る人の和歌約4,500首が編集されます。

これが「万葉集」(759年)です。やっぱり読みにくいですね。

天皇から防人(さきもり)・大道芸人・農民まで幅広い身分の人の歌約4,500首が編集されます。この辺が、大学入試で出題される可能性があるところです。

ここでも、万葉集にうたわれている「庶民の歌」は、編纂者が意図的に造ったという人がいます。当時の「庶民の学力レベルでは無理だ」というのです。

みなさんはどのように思いますか?これから学問研究するテーマにもなりますね。

古事記にある「神話」を分かり易く読み解く

ここで『古事記』や『日本書記』にかかれている、日本の神話をまとめておきましょう。思い切り「万葉仮名」を除いて、若い人に伝わりやすい書き方をします。

ギリシャ神話のゼウス(英:ジュピター)を中心にした神様たちが、オリンパス山で暮らしていたように、日本の神様たちも天空(高天原[たかあまはら])に住んでいました。

ある時、下界を見て、ここにクニを造ろうということになりました。

担当したのは、「イザナギ(伊弉諾尊)と「イザナミ(伊弉冉尊)」という男・女二人の神様でした。彼らは、混とんとしている天地をかき混ぜて日本の島々をつくりました。淡路島からです。(こんなところから、日本が始まるのです。)

高天原はどこにあるのか。そこで神々はどんな生活をしているのか。

「神話」ですから究明しようがありません。

ここでイザナギ(男神)とイザナミ(女神)は、たくさんの神様を生みます。目から・口から・耳から・・・ありとあらゆるところから神様を生みます。やたらに多くて数えきれないくらいです。だから(八百万の神=ヤオヨロズ)です。

ドラマティックな神話の展開

イザナミは、最後に「火の神様(火之迦具土神[ひのかぐつちのかみ])」を生んだので、陰部を火傷して死んでしまいます。恋女房に死なれてホトホト困ったイザナギは、黄泉(ヨミ)の国へ行って妻を連れ戻そうとします。が、すでに死者になり、変わり果てた姿になっていたイザナミは「醜い姿」を夫に見られたと激怒し、イザナギを追いかけます。

やっとの思いで逃げきって、「日向の橘の小戸」の阿波岐原(あわぎはら)というところで、黄泉の国を訪ねたためについてきた「穢」(ケガレ)を、水に入って流します。

これが「禊」(ミソギ)・「祓い」(ハライ)のスタートです。「水に流す」、身を「清める」のです。

その途中で、左目から生まれたのがアマテラス(天照大神[あまてらすおおみかみ])、右目からツキヨミ(月夜見尊[つきよみのみこと])が生まれ、鼻からはスサノオ(素戔嗚尊[すさのおのみこと])が生まれます。

祓い

天岩戸の物語

やがてアマテラス(姉)とスサノオ(弟)が大喧嘩して、姉が怒って「天の岩屋」に隠れてしまいました。困った神々は、岩屋のまえでドンチャン騒ぎをしました。アマテラスは「私がいないのに、どうして騒いでいるのでしょう!」、「そっと」岩戸を開いたら「待ってました」と力の強い神様が腕力で岩戸を開き,二度と岩戸に入れないように「注連縄(しめなわ)」したというエピソードです。日本の神話も、賑やかで楽しいですよ。

自然科学の観点から言えば「皆既日蝕」ではないかといわれますが、太陽神のアマテラスが崇拝される理由につながりますね。

悲劇の美女「コノハナサクヤ姫」の物語

アマテラスは孫の「ニニギ(邇邇芸命[ににぎのみこと])」を高千穂におろして、葦原中国(あしはらのなかつくに)を治めさせようとします。ニニギは「オオヤマズミ(大山津見神)」という神様から、二人の娘を差し出されます。しかし、ブスのイワナガヒメ(石長比売)は返し、美人の「コノハナサクヤヒメ(木花之佐久夜毘売)」と結婚します。

一夜だけで妊娠したので、ニニギは不倫を疑います。怒ったコノハナサクヤヒメは「ニニギの本当の子なら何があっても無事に産めるハズ」と「産屋(うぶや)」に火をつけて死にます。「サクヤヒメは桜の精」ですから、桜は美しいがはかなく散ってしまうことと繋がるのですね。 この辺のドラマティックな展開は、日本の神話のヤマ場です。

産屋とは、出産のための特別な家です。

この時、コノハナサクヤヒメが産んだ子供が「海幸彦(うみさちひこ)」「山幸彦(やまさちひこ)」ら三柱(みはしら)の神様です。この兄弟対決のドラマは、昔は教科書に載っていたり、絵本にあったりしました。

民俗学では、海彦・山彦の話と浦島太郎の話と繋げる人もいます。

海彦・山彦を画材にした青木繁さんの「わだつみのいろこの宮」という油絵が有名ですね。「わだつみ」とは海神・「いろこの宮」とは魚鱗の宮殿のことです。

桜

めっぽう強いスサノオのヤマタノオロチ退治物語

一方、あまりの乱暴で高天原を追放されたスサノオは、出雲に降りてきます。そこで彼は、大蛇に食べられそうになっていた「クシナダヒメ(櫛名田比売)」の救済のために、上流の大蛇を倒すことになります。「ヤマタノオロチ」の話です。

頭と尾が八つある大蛇を倒し、尾っぽから「鉄製の剣=草薙の剣」を発見するのです。この子孫に「オオクニヌシ(大国主神)」がいるのですね。絵本などで大きな袋を担いだオオクニヌシの話や「因幡の白兎」(イナバのシロウサギ)で知っている人が多いでしょう。

上流のたたら(製鉄・鉱山)を開発している人々が、下流の稲作民にとって大切な「水を汚す」ので困っていたという「水争い」がベースにあるのでしょう。

スサノオは、ギリシャ神話のヘラクレスに似ています。やたらに強くて乱暴です。

出雲大社
出雲大社 【画像の引用元

私は、宮崎駿さんの「もののけ姫」はこんな話を下敷きにしていると思います。

映画「千と千尋の神隠し」も、日本の神様オンパレードでユーモラス、明るいですね。宮崎さんのアニメや、手塚治虫さんの「火の鳥」は日本神話をベースにしていますね。

やがて「スサノオ系の出雲」に、「アマテラス系の大和」が「国譲り」を要求し、神話が、現世的になっていきますので、今回はここまでとします。

みなさんは、出雲大社に行ったことがありますか。

奈良・京都のヤマトとは異なる文化圏だと思いますね。旅に出ることを勧めます。

千と千尋の神隠し
千と千尋の神隠し 【画像の引用元

神話ですから、民俗学・考古学・思想・立場・史観などによって解釈が変わってきますが、「元号」のこと、「神話」のことなど、基礎的なことは知っていたいですね。

(安達昌二:お茶ゼミ√+特別顧問)

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