Benesse お茶の水ゼミナール
化学基礎
範囲は狭い…だが,簡単ではない!

 化学基礎で学習する範囲は大分狭い。というのも新課程になる以前は文系と理系で同じセンター試験を解いていたため,理論化学も無機化学も有機化学も範囲だったからだ。センター基礎となって文系の君たちの負担は大分軽くなった。なぜなら、範囲は理論化学のみ!新課程となる以前の3分の1程度だ。しかしながら,平均点を見るとセンター化学基礎で高得点を取ることは,簡単ではないようだ。今年の問題を見ながら,化学基礎で高得点を取るためにどうしたらいいかを考えてみるとしよう。

第1問は例年通り,「物質の構成」の分野からの出題である。昨年は第1問になかなか厄介な計算問題が入っていたが,今年は撤廃され計算問題は第2問にまとまった。問1~問5までは過去問にあるようなオーソドックスな問題なので,きちんと過去問演習をした人なら難なく得点できたはずだ。

問題は問6と問7だ。問6ではアンモニアの噴水実験が出題された。アンモニアの噴水実験は,中学校の理科で扱っている内容で,高校の化学の教科書には記載がないものもある。原理としては,フラスコ内に捕集したアンモニアが水に溶けることで,フラスコ内が減圧し水を吸い上げる,というごく単純なものである。中学内容の実験なんて文系の諸君はほとんど忘れていると思う。身の回りで起こる一見不思議な現象を考え原理を理解しようとする,自然科学に対する姿勢が身についているかどうかが重要だ。それが身についていれば,たとえ実験を忘れていたとしても問題文を読んで実験内容を理解できる。もちろん解答を選ぶ最大の根拠は高校化学の学習範囲内で,アンモニアは極性分子でおまけに水素結合できるから水によく溶けるが,メタンは無極性分子で水に溶けないということだ。

次に問7を見てみよう。受験生が苦手とする身の回りの化学からの出題だ。一般常識を問われているようで実はその認識は間違っている(まあ、ある程度の一般常識で正解が選べるといえば選べるが…)。あくまで化学の問題なのだ。全部の選択肢を“知っている”必要はないのである。今回の正解の選択肢は③で,塩素が水道水に加えられている理由は,pH調整ではなく殺菌のためである。塩素は電気陰性度の高い元素の単体なので,酸化剤として様々なものから電子を奪う。このため塩素は殺菌作用があるわけである。理論化学で学習したことをもとに選択肢を見れるようになれば,身の回りの化学の問題も単なる暗記ではなくなる。

第2問も例年通り「物質の変化」を中心とした出題だった。ただ,第1問で計算問題がなくなった分,こちらが全7問中4問計算というなかなか大変な構成だった。計算問題の中では特に問2が応用問題で、脂質単分子膜法というアボガドロ数の測定法を題材にした出題である。課程の異なる時期のセンター試験の過去問にほぼ同じ問題があるが,文字式で計算せねばならず数学な苦手な学生には厳しい問題だったと思われる。計算の仕方を1問1問暗記しているようでは到底太刀打ちできない。とはいえ,実は問題の本質はただのmol計算であり,普段の学習の時点でそれに気づいていれば解きやすい問題へと変貌する。

計算問題以外では問5の出題形式がなかなか厄介で,指示薬の色変化から酸塩基の強弱を,中和に要した液量から酸塩基の価数を読み取らねばならず,中和滴定に関してきちんと理解していることを前提として,そのうえで頭を使う。まぁ,本質的には滴定曲線の問題なわけだが,滴定曲線は昨年もグラフが与えられずデータから滴定曲線を自分で書いて解答しなければならない問題が出題されており滴定曲線を直接与えない方針のようである。

ここまで今年の代表的な問題を見てきて分かったと思うが,範囲が狭いからといって化学基礎は必ずしも簡単ではない。ただの暗記で得点を取ろうとすると,勉強量が増えその割に点が上がらない。現象や反応の原理を普段から考えて理解し学習を進めることで初めて高得点を安定して叩き出せるようになる。そのうえで,ほんの少しの理系的な思考力が必要である。


第1問物質の構成昨年と異なり計算問題がなくなった。アンモニアの噴水実験や,身の回りの化学なども出題された。
第2問物質の変化全7問中計算問題が4問。応用的な計算問題も出題された。