Benesse お茶の水ゼミナール
国語
易化は易化だが

第1問
評論文とは「全文を整理整頓し通す力」が求められる科目なのだと常々言っている。全文を見通すことは、もちろん読んでいる最中にはできない。初読時は五里霧中だ。読み終えて振り返ってみて初めて筆者の主張(テーマとその定義付け)が確定される。普通、人は読み終えた文章の全体構造を把握しようとはしない。だから大学入試における評論文には意識的な読解が不可欠なのであり、そういった訓練を経た受験生が確信を持って解答できる問が良問と呼ばれるのであり、センター試験は毎年その期待によく応えてきた。

さて、2014年のセンター試験だが、問2が良問に当たる。第4段落で提示された、「漢文」(テーマ)とは「学習する者にある特定の思考や感覚の型をもたらす」(定義付け)という筆者の主張が、中国古典文を通して第9段落にあらためて語られているという構造が掴めれば、解答は容易に④に決まる。また、この構造を取ることができれば、センター試験特有の問6の(ⅱ)が自動的に①と決まる。問6はわざわざ対策、テクニックを要するものではなく、先に書いた「評論文」そのものの力があれば自ずから解答が導かれるものであり、その意味でやはり良問といっていい。翻って、問3・問5・問6の(ⅰ)は果たして本質的な力量の有無を問う良問と言っていいかどうか。問3は③の「儒家」が、問5は①「幕府の教化政策を推進する者に求められる技能」がそれぞれ弾かれる理由になるが、この些細な注意力を要する問題を良問というべきか。注意力にすぎないので容易というべきか、評論文の本質を掴んでいる生徒ほどうっかり蹴躓いてしまいやや難、点を落とすならここか、と同情すべきか。また問6の(ⅰ)は消去法でいくしかなく、設問形式先行というか、例年に倣って無理に拵えた感が強い問である。いずれも解答が出るという点で巧妙に悪問といわれることを避けているが、だから昨年に比べて解き易く易化というべきか、易化ではあろうが実力ある生徒が果たして高得点揃いであったか、はまた別の話だ。

加えていっておくと、近年漢字は難化している。

第2問
これは紛れもなく易化した。「日本語力」と「注意力」で全て難なく解答できる、という意味でいかにも「小説文」的な小説文であった。だが、長い。ただでさえ長いのに昨年よりさらに1100字ほど加わっている。なので、たとえば最後の問6が、生真面目な受験生ほど時間が足らず点数を落としたのではないか。易化にも拘らず、この日にために訓練してきたにも拘らず、いや訓練してきたからこそ、その成果を出そうと思うが余り点数を失ってしまった受験生の顔も浮かぶ。易化とはいえ満点続出とまではいかないか。

第3問
出典の「源氏物語」には誰もが度肝を抜かれただろう。センター試験に有名出典が出ないことはあまりに言われていたことだったから。だが、そこはさすがセンター試験の古文で、「源氏物語」の背景知識の有無は解答には関係ない設定になっている。たしかに「源氏物語」は難しい。古文の中で最高の難易度を誇るといってもいい。しかし、読み難さという点なら昨年度の「松陰中納言物語」や4年前の「恋路ゆかしき大将」の方が和歌の解釈も相俟ってよほど難しかった。象徴的なのが問4で、解釈自体はたしかに厄介なのに何と注12にずばり解答の根拠が書かれていて、驚いた。某私立大学の入試ならいざ知らず、かつてのセンター試験でこんなことがあったかどうか。問5も難しいが、読解の要である敬語を押さえ主格判定を習った通りすれば①・④に絞れ、また④も「私の名誉も考えてほしい」で切れる。読解は至極難解だが、注釈や選択肢から例年以上に高得点を狙える設定ではあった。だが、実際はこの第3問こそ多くの受験生を苦しめ、国語の敗因になってしまったと思われる。こういった難解な問題に耐え得るための受験勉強であったはずだが、その成果が出たかどうか。古文の読解力以上に、習ったことを出し尽くして正答に至る「試験力」そのものが露わになったかもしれない。

第4問
今回のセンター国語の中で唯一難化したといえるのが漢文か。難化の原因は、漢文の基本知識で対応が効かないところにある。本文は白文が例年になく多いし、問1の(2)の「尚」、問7の「豈」(反語ではない)は、通常の知識を超えている。習ってきたことが通用しない事態は君たちをパニックに陥れたかもしれない。だから難化なのだが、だが、早々に漢文を放棄しロジックで(現代文的に)攻めたてた場合はむしろ易化したと感じただろう。漢文学習にあまり熱心ではなく漢文にあまり自負がない受験生ほど高得点が取れる試験を難化と見なすべきか、いや、むしろ「漢文」学習をさほど必要としないという意味では実は易化なのか。ともあれ、漢文から解き始め、問7で足止めを食らった受験生は、時間に追われてしまい現・古に力を振るえず悔しい思いをしたのではないか。

総論
全体としては易化したといいたい。易化は易化なのだが、正しく訓練を積んだ者がそのまま報われると言ってしまう程、楽観的にはなれない。実際は古文・漢文を中心に苦戦を強いられた受験が多いのではないか。国語は小問当たりの配点が高いゆえに些細な判断ミスが大きなダメージをもたらす。もちろん、是が非でも正解すべき良問もある。それは後日、映像の方で具体的に紹介する。だが、すっきり200点満点を取らせない底意地の悪さも感じてどうも今年は後味が悪い。英語のような点数の分布図が国語も描けないものか。


第1問現代文齋藤希史「漢文脈と近代日本」。字数減もあり、やや易化。
第2問小説文岡本かの子「快走」。字数大幅増もいずれも捌きやすい選択肢でやや易化。
第3問古文紫式部「源氏物語」(夕霧)の一節。文章自体は難解だが、注釈や選択肢のわかりやすさのおかげで、やや易化。
第4問漢文陸樹声「陸文定公集」。白文の部分も多く、基本知識だけでは解けない設問もあり、やや難。


平均点変移
20132012201120102009
101.04117.95111.29107.62115.46